釈迦のさとり「新しいスピリチュアルの潮流の系譜」

新しいスピリチュアルの潮流としての「奇跡のコース」「ノンデュアリズム」を理解するために、関連するインドの歴史を振り返りました。前回の内容は、一般に知られるヒンドゥー教と仏教のあらましとしては、少しだけ深いくらいで、熱心な信者ではないかぎり問題ないと思われます。趣味でヨーガや仏教を勉強されている方には、「ヒンドゥー教(ヨーガ)の仏教化」「仏教のヒンドゥー教化」は初耳で、ちょっとしたスクープに感じられるかもしれません。歴史学者や宗教学者の間では常識とされている「史実」ですので、私の独自研究と誤解なさらないようご注意ください。

新しいスピリチュアルの潮流の系譜

新しいスピリチュアルの潮流は、1900年代に始まった「欧米へ紹介された東洋の神秘」が起源です。今でも一目を置かれているヨーガ行者として、パラマハンサ・ヨガナンダがもっとも著名でしょう。日本のスピリチュアルでは仏教色を控える傾向にあるためか、日本の若い世代に知られていない人物には鈴木大拙が国際的に有名です。欧米ではヨーガと禅はほぼ同じなのでしょう。

日本で10年近く前に「引き寄せの法則」が流行りましたが、それは1900年代から欧米で活躍したヨーガ行者たちの教えを、欧米人なりにわかりやすくしたものです。

日本におけるスピリチュアルが「不思議ちゃんが読む本」と揶揄されるほどなかなか一般化されていないように、欧米でもキリスト教的倫理が一般的であり、欧米で著名といってもマニアックであることには変わりありません。

とはいえ、欧米人にはない発想だらけの「東洋の神秘」は驚きをもって迎えられました。転生説や禅(ヨーガ)は日本では一般的な知識でありましたが、欧米人にとっては「神の意志ではなく、自分の意志で、奇跡が起きたり、運命を変えられたりできる」という考え方は「神中心」ではなく「自分次第」というコペルニクス的転回です。欧米のマニアは飛びつき、「欧米人にとってわかりやすいテキスト」に変換されていきました。

それは結果的に、日本では「漢文のお経」「僧侶の説法」「仏教の宗教書」でしか触れられなかった東洋の根底に眠るスピリチュアルが、欧米人によって発掘される結果となりました。

1900年前後になぜ注目されたのか

「東洋の神秘」が1900年前後に欧米で注目されたことには理由があります。この時代は人類の大きな転換期だからです。世界史を読み解くと膨大な量になりますので、少しだけ取り上げますと「アインシュタインが相対性理論を発表」「世界初のアメリカにおけるポジティブ・シンキングや成功哲学などのニューソート運動」「潜在意識を発見した心理学者フロイトの出版」「世界初、白色人種に有色人種が勝利した日露戦争」「第一次世界大戦」「日露戦争敗戦と世界大戦撤退をきっかけにロシア崩壊と世界初の社会主義国ソヴィエト連邦建国」などがあります。

平たく言えば「光の速さで飛ぶと時間止まるらしいぜ」「キリスト教の先輩うざいから成功哲学で信仰心証明して見返そうぜ」「自分のことなのにわからない潜在意識やばいらしいぜ」「白色人種が優秀だから先進国になってたと思ったら有色人種に負けただと?」「マジ世界大戦キツイわ~」「資本主義が争いのもとだから社会主義が理想の国かも?」といったところでしょうか。

文明の発展により、人類は初めてだらけの時代に突入し、もうなんでもありの気持ちになりました。ロシアが日本に負けた日露戦争は欧米人のプライドがもろいものだと証明してしまったので「東洋すごくね?」となるのも自然な話なのです。もちろん「東洋の中で日本だけ優秀っしょ!」と日本人が調子に乗ってしまったのも事実なのですが……。

「欧米人がそんなに落ち込むかねえ」と疑問に思う方もいらっしゃるかもしれません。その後の歴史を見ますと、ナチス・ドイツが「ゲルマン人が優秀に決まってるっしょ!」と証明するために暴走したことは、ヒトラーの書籍でも有名です。「じゃあ、欧米人が優秀と言いたいのに、なんで東洋?」となりますが、実は日本とちがい、インド人は白色人種と同じアーリア人を先祖に持ちますので「ヨーガ、マジすげ~かも!」となってもよかったのです。そのため、神智学協会といったマニアックな団体も有名でした。彼らは「救世主をインド人から探そう」キャンペーンを張っていました。欧米では、世界の終末とキリスト教の救世主の再来が近いと信じられていたからなのです。第一次世界大戦が初めて起きたくらいですから、相当な危機感だったことでしょう。

東洋の日本への逆輸入

人類は20世紀に紆余曲折があり、再び第二次世界大戦で苦しんだり、科学が劇的な発展を遂げたりして、さまざまな体験をいたしました。飛行機は飛ぶわ、月にたどり着くわで、これはもう、なんでもあり祭りですね。

21世紀に入り、SFで描かれていた夢の世界はまだ現実にならず、バブルと不況、戦争やテロ、インターネットによる情報革命など、20世紀に比べると緩やかな時代が続きます。自己啓発・精神世界は、ニューソート、ニューエイジに続き、スピリチュアリティの時代になりました。

「東洋の神秘」の「欧米人にとってわかりやすいテキスト」ということは、「基礎知識がない人にわかりやすいテキスト」とも言い換えることができます。
また、商業主義的にも「欧米で売れたテキストは、日本でも売れるかもしれない」という予測がしやすく、「スピリチュアルは、欧米のファッション(流行)」というスタンスによる宣伝広告が定着しました。それはカルトによるオカルト色がぬぐえなかった自己啓発本・精神世界本の業界のイメージ・チェンジには必須だと考えられたことでしょう。

現代の日本人にとって、「漢文のお経」「僧侶の説法」「仏教の宗教書」を通して学ぶしかなくむずかしかった「東洋の神秘」が、「欧米人にとってわかりやすいテキスト」を日本語訳することで、日本人にもわかりやすいという結果になりました。「東洋の神秘」の逆輸入ですね。スピリチュアルのファッション性を維持するために、あるいは、欧米在住の当事者となった日本人がもともと仏教に精通しておらず、適切な日本語訳がわからないために、カタカナ語や平易な言葉が多用されるのも、むしろプラスに働いたといえます。

そこに混乱があるとすれば、欧米ではヒンドゥー教と仏教をあまり区別せず「東洋の神秘」としてひっくるめておりますが、日本にはもともと仏教のみが根付いており、ヒンドゥー教の文化がほぼ皆無ですので、日本に逆輸入しても仏教らしさが軽減されるところがあります。「日本にはない新しいもの」という誤解ですね。それは前回お伝えした「日本の仏教はヒンドゥー教化した仏教」ですから、日本文化としては「古代日本にすでに伝来していたもの」と言っても過言ではないでしょう。

次回、釈迦が得た神通力を解説して、「新しいスピリチュアルの潮流」とのちがいを解き明かしたいと思います。

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